組織変革・社会変革のための4段階プロセス

複雑化が進む現代社会では、組織や社会において困難な課題を多くの人々の力を結集して解決していく必要に迫られています。社会全体でいえば、地球環境破壊、社会的不平等、国際紛争、エネルギー、生命倫理など、企業や組織でも、グローバル化ダイバーシティ、デジタル化、安全、ウェルビーイング、など対応しなければならない課題は枚挙にいとまがありません。とりわけ、資本主義制度のもとで活動する企業や組織は、自らの存在意義(パーパス)として社会に貢献すると当時に、確実に利益を稼ぐことで経営活動を持続させなければなりません。そのために、急速に複雑化し、変化や不確実性が激しい環境に適応できるよう、組織を変革しつづけなければなりません。また、複雑な社会課題を解決するためには、1つの組織のみでは不可能であるため、多くの組織を巻き込んだ連携を組んで課題に立ち向かう必要があります。そのために、個別の努力の限界を超えて、協働を通じて大きな変化を生み出していく必要があります。

 

しかし、組織や社会システムはそれ自体、生き物のように振る舞うとストロー(2018)は指摘します。そこでストローは、ずっと手がつけられなかった、大きな、もしくは根本的な課題を解決するために、システム思考を活用しながら、組織変革・社会変革を実現する具体的な方法を解説します。キーワードは、「コレクティブ・インパクト」です。カニアとクレイマーによれば、コレクティブ・インパクトとは、異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の複雑な社会課題の解決のために、共通のアジェンダに対して行うコミットメントであるとストローは説明します。そして、コレクティブ・インパクトの成功条件として、「共通のアジェンダ」「共通の測定手法」「相互の補強し合う活動」「継続的なコミュニケーション」「バックボーン組織」というポイントを挙げています。

 

ストローは、上記のような組織変革・社会変革を実現するための、4段階のプロセスを紹介しています。それは「変革の基盤を築く」「今の現実に向き合う」「意識的な選択を行う」「乖離を解消する」の4つです。

 

変革の第一段階は、「変革の基盤を築く」ことで、全体的に変化の準備を整えることです。これには、次の3つのステップが含まれています。1つ目のステップは、主要な利害関係者を巻き込むことです。具体的には、利害関係者になりうる人々を特定し、その人たちを個別に、そして全体としても巻き込む戦略を設計して実行します。2つ目のステップは、人々が実現を望むことと現在の立ち位置について最初のイメージを描くことによって、共通の基盤を確立することです。具体的には、理想的な結果についての共有ビジョンを描き、現時点で何が上手くいっていて、何が上手くいっていないのかについての概要を掴むことです。3つ目のステップは、人々の協働する能力を構築することです。具体的には、人々がシステム思考を活用し、難しい問題をめぐって生産的な対話をする能力や、今の現実に対する責任を引き受ける内面的な能力などを開発します。

 

変革の第二段階は、人々が「今の現実に向き合う」ことを支援することです。それによって、「何が起こっているのか」「なぜそれが起こっているのか」についての共通理解を構築するのみならず、自分がこの現実を生み出す原因にもなっている事実を受け入れるようにすることです。この時点では、理想的な未来についてより明確で豊かなイメージを描くことよりも、現実をより深く掘り下げることで「自分達の現在地を理解したいし、理解されたい」という欲求に答えることを優先します。具体的には、さまざまな要素が、時間の経過の中でどのように相互に作用し、ビジョンの実現を後押しするのか、損なうのかについて、関係者を巻き込みながら自分たち自身の大まかなシステム分析を行います。そうすることで、人々の行動に影響を及ぼす「メンタル・モデル」を浮き彫りにし、気づき、受容、新たな選択を促す触媒的な対話を生み出します。

 

変革の第三段階は、人々が、自分が本当に望んでいることに寄与するように、「意図的な選択を行う」ことを支援することです。その結果として、自分の最高の志を実現することの恩恵だけでなくコストも十分に認識しつつ、その志に対して全力で取り組む姿勢を構築します。具体的には、第二段階で明らかになった「現状維持を是認する議論(現在のシステムの短期的な便益)と、変化する場合のコスト(労力、時間、投資など)を明らかにします。次に、これを第一段階で描かれた、望む変化への議論(変化した場合の便益と、変化しない場合のコスト)と対比させます。そして、両方の便益を実現する解決策を生み出すか、その両者間での難しいトレードオフを進んで受け入れます。これらの意識的な選択を行い、人々が呼び寄せられていると感じるものや、生み出したいと心から願っているものを浮き彫りにするビジョンを通じて、その選択を活性化させます。

 

変革の第四段階は、第三段階で確認した「心から望んでいること」と、第二段階で明確にした「現在地」との「乖離を解消する」のを支援することです。また、システム上のレバレッジポイント(構造のツボ)を見つけ、継続的な学習と幅広く人々を巻き込むためのプロセスを確立します。具体的には、コミュニティからの意見を参考にしながら、因果関係のフィードバックを配線し直したり、メンタルモデルを変容させたり、選んだ目的を強化したりして、レバレッジの効いた介入策を提案し、練り上げます。そして、継続的に利害関係者を巻き込み、長期的なロードマップの一部として検証プロジェクトを組み込んだ実行計画を策定し、集めるべきデータを精査したり、利害関係者から得た意見による定期的な計画の評価・修正を行い、追加リソースの開発、機能する施策の拡大によって利害関係者の関与を拡大するプロセスを実行します。

 

これらの段階、ステップは必ずしも直線的には進まず、例えば、第四段階で学んだことが、継続する循環プロセスの中で新たに始まる第一段階にフィードバックされるといったことが起こります。この循環プロセスに十分な時間をかけることが極めて重要だとストローは主張するのです。

参考文献

デイヴィッド ピーター ストロー 2018「社会変革のためのシステム思考実践ガイド―共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する」英治出版